金融機関の貸倒引当金関連開示に係る研修を受講しました
- 佐藤篤
- 2022年4月8日
- 読了時間: 3分
更新日:2022年5月26日
長年金融機関の業務に携わっております。
金融機関といえども会計としての大きな考え方は事業会社と変わるところはないのですが、一部特殊なところがあり、その一つが貸倒引当金で、事業会社よりも詳細な見積と開示が要求されます。
その金融機関の貸倒引当金関連開示に係る研修を受けてみましたので、一部面白かった部分を共有したいと思います。
尚、当該研修は2021年3月期の有価証券報告書における貸倒引当金関連の注記事例をベースに構成されています。
貸倒引当金の計上基準について
1.貸倒実績率または倒産確率の算出においてグループを記載している事例
倒産確率の算出において、要注意先を要注意先上位、要注意先下位、要管理先の3つに区分
貸倒実績率の算出において、消費者ローン先と事業性貸出先に区分した上で、事業性貸出先は正常先2つ(正常先上位、正常先下位)、要注意先3つ(要注意先上位、要注意先下位、要管理先)に区分
正常先と要注意先の上位と下位をどう区分しているのかまではわからないのですが、現実問題として正常先や要注意先から突然破綻してしまうこともあり、その辺りを類型化して区分しているのかも知れません。
2.今後の予想損失額を見込む一定期間(1年または3年以外)を記載している事例
債権の平均残存期間に対応する期間として要注意先上位44ヶ月、要注意先下位40ヶ月、要管理先41ヶ月と記載。
具体的な期間の記載は、有報利用者にとってだけでなく、同業他行にも参考になる記載だと思います。もちろん、金融機関の会計監査人にとってもとても参考になります。
3.必要な修正の理由、具体的な方法、金額を記載している事例(重要な会計上の見積り注記の中で記載)
「特にCovid-19の拡大により、経済環境が急激に悪化していることを踏まえ、最近の期間における貸倒実績率または倒産確率の増加率を考慮し調整しており、当該調整による影響額は、30,846百万円であります。」
具体的な影響額の記載は有報利用者にとっても有益だろうと思います。
また、予想損失率に必要な修正を実施していない旨を記載した事例もあったとのことで、これも同じくらい有益な記載だと思います。
「重要な会計上の見積り」の記載について
1.新型コロナウイルス感染症の影響を貸倒引当金に追加計上している事例
「債務者区分を引き下げたものとみなし、貸倒実績率に必要な修正を加え見積もる方法により貸倒引当金を追加計上しております。」
「要注意先のうち、新型コロナウイルス感染症の影響により業績悪化が懸念される業種に属する一定の債務者グループに対して、追加的な貸倒引当金を計上しております。具体的には、以下に記載のキャッシュ・フロー見積法による予想損失額と、過去の貸倒実績率に基づく予想損失額との差額を、追加的に計上しています。」
債務者区分を引き下げたものとみなす方法は恣意性が排除されている点、実務的にも比較的簡便な方法である点が優れていると思います。
一方、特定の業種を抜き出す方法は、恣意性や簡便性では劣るものの、より実態に即した見積方法だと感じました。
上記以外にも様々な事例が取り上げられており、特に貸倒引当金を積み増したいが、具体的にどうするのが過年度との継続性や恣意性排除の観点から合理的なのか悩んでいる場合、大いに参考になる研修だと思いました。
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