資本政策と配当利回り~武田薬品工業㈱の自己株式取得~
- 佐藤篤
- 2021年11月2日
- 読了時間: 3分
先日、株式会社シマノ(以下「シマノ社」)の2021年12月期第3四半期決算短信についての感想記事をアップしました。
その中で自己資本比率の高さと有利子負債を利用しての自社株買いによる資本コストの低下について触れたのですが、武田薬品工業株式会社(以下「武田薬品社」)がそのような動きを見せております。
武田薬品社の経緯
2021年10月6日に「経口オレキシン作動薬TAK-994の臨床プログラムのアップデートについて」というIRを出しています。これを受けて株価は2021年10月1日終値 3,636円から2021年10月8日の終値 3,199円まで10%以上下落しました。
2021年10月8日に「円貨建ての担保普通社債(満期10年)の発行条件決定に関するお知らせ」というIRを出しています。調達額 2,500億円、利率年 0.4%で、使途は主に既存有利子負債の返済資金とし、残額は運転資金へ充当とのことです。
2021年10月28日に2022年3月期第2四半期決算短信の発表と同時に「自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ」というIRを出しています。上限は 3,500万株、1,000億円で、取得資金は営業キャッシュフローと運転資本の改善から得られる資金を充当する予定とのことです。
ネガティブなIRをきっかけに株価が下落し、有利子負債で資金調達し、自己株式を取得し、資本効率のアップを図るという教科書的対応です。
社債発行に伴う資金使途は上述の通りで、自己株式取得資金とは明記されていませんが、実際はお金に色はないので、社債で調達した資金の一部が自己株式の取得に回らないと言い切ることは困難です。
武田薬品社のこのような動きに対して。シマノ社が同じような動きをしない要因の一つとして、両社の配当利回りの差があると考えています。
武田薬品社の2021年11月1日終値ベースでの配当利回りは 5.54%と配当負担が重い状況です。
上記の武田薬品社の動きは資本効率を高めて企業価値の向上を目指すものであり、且つ株主の期待収益率と配当利回りは本来無関係ですが、会社にとっては配当資金負担の問題があります。減配という手もありますが、それは株価にダイレクトな下落圧力となります。
それならば有利子負債で資金調達して自己株式を取得したほうが、株価の下落圧力もなく、資本コストも下げられ、将来的な配当の資金負担も低減できるという訳です。
一方でシマノ社の2021年11月1日終値ベースでの配当利回りは 0.72%とさほど配当負担は重くなく、且つ高い資本コストでもそれを十分に上回るだけの事業利益を捻出できるという自信があれば、財務健全性を犠牲にしてまで教科書的に資本効率を高める理由もないのかも知れません。
両社とも研究開発力勝負という点では共通していますが、資本政策は随分違いがあるものだな、と感じた次第です。
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