財務諸表作成者の立場からみた四半期開示見直しの論点~「企業会計」2022年9月号~
- 佐藤篤
- 2022年9月27日
- 読了時間: 4分
前々回に引き続き、「企業会計」2022年9月号の四半期開示見直しに関する特集の一記事を取り上げます。
今回は「財務諸表作成者の立場からみた四半期開示見直しの論点」(植村一之 パナソニックホールディングス株式会社グループ決算担当上席主幹)です。
四半期開示の見直しについて
四半期決算短信と各社任意の決算説明資料や補足資料を用いて、マスコミや証券アナリスト、機関投資家等の資本市場とのコミュニケーションを図っているが、これが最も速報性があり有用と考えられる。そのため、仮に四半期開示そのものが任意になったとしても企業は自主的に四半期開示を継続させていくと考える。
企業の立場では、開示のタイミングがそれほど変わらない四半期決算短信と四半期報告書の二つの開示書類への対応を余儀なくされていて、これに人的リソースやコストを大きく費やさざるをえず、大きな負担となっている。
財務諸表作成者の意見交換会等では四半期報告書に対する質問や問い合わせは非常に少ない。
以上より、四半期開示の見直し自体は歓迎だが、逆に企業・財務諸表作成者に重荷を強いる結果になってしまう可能性を懸念している。
四半期決算短信の義務付けの要否
4,000社近い全ての上場企業に義務付ける必要はなく、多くても現プライム市場への上場企業2,000社弱レベルでいいのではないか。
任意化や定性情報の開示に留めることも視野に入れて検討することもありうる。
四半期決算短信の内容
現状レベル、即ちサマリー情報、B/S,P/L及び主な注記で十分ではないかと考える。
各社とも以前と比較して任意の決算説明資料等を活用して、マスコミ・資本市場・投資家等とのコミュニケーションを強化してきており、これは対話・コミュニケーションを重視する我が国の企業・財務諸表作成者の大きな流れとなっている。
四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメントの手段
四半期決算短信を臨時報告書として提出することについては、金融商品取引法における記載責任等の対象となる制度設計案であり、しかもこの議論は、四半期のみならず、年間決算時にも波及する問題でもあるため、懸念事項が非常に多く、慎重な検討が望まれる。少なくとも、四半期決算短信の業績予想に関わる部分については、臨時報告書の開示対象外にすることを明確にすべき。
四半期決算短信に対する監査法人等によるレビューの必要性
監査法人等によるレビューを要求する場合は、フルセットの四半期決算短信と注記が要求されることになり、四半期開示の簡素化と逆行することが想定され、タイムリーな開示ができない結果となることが懸念される。従って決算短信に対する監査法人等の関与は不要と考える。
特にIFRS任意適用企業については、IAS第34号「期中財務報告」が適用されるため、日本基準では第1・第3四半期の開示省略が可能な注記もIAS第34号の規定により開示が求められることになり、負担が非常に大きくなるため。
第1・第3四半期報告書の廃止後に上場企業が提出することになる半期報告書(又は第2四半期報告書)と監査法人等の保証のあり方
従前の半期報告書に戻すことは適切ではなく、現状の第2四半期報告書と同じ建付けを継続すべきである。現在の半期報告書は、四半期報告書のような開示の簡素化が進んでおらず、必要性が乏しい個別財務諸表の開示も求められている。
現在の非上場企業等の半期報告書・中間監査と不整合になるとの理由から、上場企業の第2四半期報告書も中間監査でなければならないという意見もあるが、そもそも非上場企業に対して半期報告書と中間監査を要求することが過重ではないかとの見方もあり、非上場企業に対しても第2四半期報告書・レビューによる開示を認める方がいいのではないか。
感想
言うまでもない事ですが。財務諸表作成者である企業側の意見としては省力化、簡素化、低コスト化を主張するのは当然です。そういった意味では、違和感のない主張だと思いました。
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