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社外役員が機能不全を起こしている要因~「会計・監査ジャーナル」2024年10月号~

  • 佐藤篤
  • 2024年10月11日
  • 読了時間: 5分

「会計・監査ジャーナル」2024年10月号のアカデミック・フォーサイトは「企業不祥事にみるガバナンス不全の実情-ガバナンス・コードに対する問題提起-」(樋口晴彦)でした。

個人的にとても面白く読みましたので、少し長くなってしまいますが、当該論考のメモ書きをシェアしたいと思います。

 

当該論考の問題意識

  • 近時の企業不祥事の原因は社外役員によるガバナンスが機能していないことが一因。

  • コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の形式要件を満たす者を役員へ揃えることばかりに注意を向け、ガバナンスの実質を確保することが疎かになっているのではないか。

 

「アドバイザリーモデル」と「モニタリングモデル」

  • 社外役員の役割に対する基本的な考え方は「アドバイザリーモデル」と「モニタリングモデル」に大別される。

  • アドバイザリーモデル;経営者に有益な助言を提供すること

  • モニタリングモデル;経営者に対するお目付け役(監視・監督・評価の実施)

  • グローバルスタンダードでは、エンロン事件等の反省を踏まえて、モニタリングモデルが基本とされている。

  • モニタリングモデルに基づく監視機能を充実させるために、どのような社外役員を選任すればよいかの三要件。

①経営者からの独立性

⓶経営に対する監視能力(特に会計の基礎知識と情報収集や経営者との対話に所要の時間とエネルギーを投入できること)

③職責の自覚

 

経営者からの独立性

  • 多くの企業では証券取引所の独立性基準に準拠して社外役員を選任しているが、当基準は、取引先関係者や業務執行者などの排除が中心となっているため、常識的に考えれば独立性を発揮できそうにない人物まで独立役員と扱われているのが現状。

  • 精神的独立性を担保するためには経済的独立性も欠かせないが、当人が当該企業からの役員報酬に依存していれば、そのポストを守るために自主規制してしまうことが懸念される。また報酬額が高すぎるのも、やはりそのポストに固執する心理を生み出し、独立性に悪影響を及ぼす恐れがある。

  • 社外役員が特定組織の出身者により引き継がれる「指定席」の問題がある。

  • 近年、常勤社外役員を設置する動きが広がりつつあるが、常勤となれば経営者との接触も頻繁となり、独立性を喪失して「社内化」する懸念がある。

 

経営に対する監視能力

  • 最近では、会計や経営に関する基礎知識が不足した人が社外役員に選任されることが増え、企画部や秘書課が議事の事前説明に非常に苦労しているという話を聞く。実際の不祥事でも、学者や官僚出身者のように経営の基礎知識を欠く社外役員が全く存在感を示せなかったケースが多い。

  • CGコードが取締役会のスキル・マトリックスを要請した関係で、社外役員についてもスキルの多様性が重視されているため、まず「枠」を設定して、それに合わせて社外役員を選ぶという運用が広がる懸念がある。

  • 日本企業では、上場企業の役員経験者や著名人などの「大物」を社外役員に選任する傾向があるが、過去の不祥事ではその「大物」社外役員が機能していなかったケースが目立つ。当人が高齢で知力・体力が衰えていることや、当該企業の社外役員としての活動時間を十分に確保できないことがその要因として挙げられる。

 

職責の自覚

  • 過去の不祥事では、社外役員が眼前の問題点を漫然と放置していたケースが非常に多い。

  • コンサル出身社外役員等、会社側を「クライアント」と意識している可能性もある。

  • CGコードでは筆頭独立社外取締役の選任を求めているが、同人が他の役員の意見を取りまとめる過程で小数意見が封殺されたり、他の社外役員の間に筆頭社外役員に対する依存心や遠慮が生じたりすることが懸念される。

 

女性・外国人社外役員の問題点

  • CGコードがジェンダーや国際性などの面での多様性を求めていることから、現状では女性社外役員が引っ張りだこになっている。その結果として社外役員を掛け持ちしているケースが珍しくない。

  • 一部には、経営とは無関係の分野で異色の経歴を持つ女性を社外役員に選任している企業も見受けられる。

  • 本来であれば、社内で女性役員の育成を図るべきところ、外部から招聘することでお茶を濁しているとの批判もある。

  • 「女性役員は一人いれば十分」と考えている経営者が率いる企業では、女性社外取締役の存在が社内の女性にとって役員への登用を妨げる「ガラスの天井」と化している可能性がある。

  • 外国人社外役員については、日本の事情に不案内であったり、日本語力が不足していたり、その役割を果たせない事例がある。テレビ会議のみで取締役会へ参加し、会社関係者との接触が不足している、そもそも取締役会への出席率が著しく低いといったケースもある。

 

失敗した社外役員に対する追求不足

  • 日本企業は失敗した社外役員に驚くほど寛容であり、その要因は企業側が社外役員に多くを期待していないためと考えられる。

  • 経営者が、社外役員が経営に容喙することを望まず、投資家対策としてガバナンス形式だけ整備しようという思惑が存在すると思われる。

  • 現実には、社外役員が執行部側に取り込まれ、経営者を守る「盾」として利用されることが増えていくのではないか。

 

感想

著者である樋口先生のおっしゃる事は御尤もです。

 

が、上記のような理想的な資質の持ち主は、そもそもリスクの高さを嫌って、社外役員になりたがらないように感じています。

現実的に社外役員になるのは、ビジネス上(もしくは経営者との個人上)の貸し借りの関係で引き受けざるを得ない場合が多く、それ故責任追及も甘くなるのだと思います。

 

また、女性役員については、経営者も社内登用したいと思っていて、その旨候補者の女性従業員さんにいざ打診してみると、断られるか最悪退職されてしまうとのことで、止む無く社外の方にお願いしているという話を聞いたことがあります。

 

いずれもメンタリティの問題であり、一朝一夕にどうにかできる話ではなさそうだと感じています。

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