監査報酬の現状と課題~「企業会計」2022年10月号~
- 佐藤篤
- 2022年10月14日
- 読了時間: 3分
更新日:2023年1月23日
前回は「企業会計」2022年10月号に掲載されていた報酬依存度に係る柳澤義一先生の記事を取り上げましたが、今回は同号の「監査報酬研究が解明すべき4つの課題」(矢澤憲一)を取り上げます。
以下、定義や調査方法は省略していますので、詳しくは実際の記事にあたっていただきたいと思います。
監査人に対する独立性の影響
監査の独立性は、精神的独立性と外観的独立性から構成される。
オークランド大学のデイヴィッド・ヘイ教授の報酬依存度に関する先行研究によれば、意外な事に、報酬依存度が監査人の精神的独立性に与える証拠はほとんど見つかっていない。
これに対して、報酬依存度が外観的独立性に与えるネガティブな影響を報告する研究が見られる。
以上より、今般のIESBA倫理規則の改正は、精神的独立性よりも外観的独立性の向上を意図したものと考えられる。
我が国の監査報酬依存度の状況
大手監査法人及び準大手監査法人の監査報酬は2016年から2020年にかけて右肩上がりに増加している一方、中小監査法人・事務所は2016年からほぼ横ばいで推移。
市場シェアに関しては、大手監査法人は低下している一方で準大手と中小は増加している。要因としては大手から準大手、中小への監査人の交代が増加していること、IPOにおける準大手、中小の担当が増えていること等が挙げられる。
1法人・事務所当たり被監査会社数について、124法人・事務所のうち被監査会社が5社以下である監査法人・事務所は72法人・事務所と全体の約6割を占める。
2020年において、報酬依存度が15%の被監査会社を有する監査法人・事務所は大手が0、準大手が1、中小が72となっており、全体の58.9%を占めている。
2020年の報酬依存度を被監査会社別にみると、全体の3%にあたる117社が15%となっており、そのうち50%を超える会社が20社ある。
全体を俯瞰的にみると、被監査会社が5社以下の監査法人・事務所では15%超になる可能性が高く、中堅規模の監査法人でも場合によっては特定の被監査会社に対する報酬依存度が高くなることが分かる。
今後の研究課題
報酬依存度がもたらす経済的帰結の解明。中小監査法人・事務所の多い日本の監査市場においては実証的な検証が重要。
倫理規則の改正がもたらす経済的帰結の解明。15%という閾値、2期あるいは5期という期間がどの程度妥当なのかの検証が課題となる。
日本の監査市場の変化に対する分析。中小監査法人・事務所の市場シェアが高い日本では、5年後に少なくない数の監査人の交代が発生し、また、それを避けるため監査法人・事務所の統合が行われることが予想される。こうした交代や統合が監査の質へ与える影響に対する学術的な検証が求められる。
開示やガバナンスとの関連性。15%を越える場合の開示や監査役等とのコミュニケーションが求められており、これらが資本市場やガバナンスへどの程度影響するかの検証が求められる。
感想
今回の倫理規則改正に限らず、何等かの規制が導入された場合に、事後的にその規制の効果を検証することが必要と思われます。
そういった意味では、著者の矢澤先生が挙げられている今後の研究課題には是非取り組んでいただきたいものです。
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