業務執行パートナーの業務負担と監査品質の関係~「会計・監査ジャーナル」2025年3月号~
- 佐藤篤
- 3月18日
- 読了時間: 4分
「会計・監査ジャーナル」2025年3月号のアカデミック・フォーサイトは「業務執行パートナーの業務負担と監査品質の関係:内部資源の利用可能性に基づく分析」(高田知実)でした。
高田先生の論説は会計監査に従事している会計士にとって学びになるものが多く、個人的に楽しみでもあります。
以下、当該論説の概要です。
Suzuki and Takada(2023)論文
日本の上場企業の財務諸表監査を担当する業務執行パートナーの業務負担と監査品質指標との関係、及び、両者の関係が内部資源の利用可能性によって異なるか否かを検証している。
内部資源の利用可能性を調査変数とし、業務執行パートナーの業務負担と監査品質との関係を分析している。
先行研究
アメリカ企業を対象にした研究では、繁忙期である12月決算企業は、他の月が決算日である企業に比べて、監査品質が低いことが明らかとなっている。
複数の研究において、業務執行パートナーが担当するクライアント数(の増加)、または、監査報酬などで加重された業務量(の増加)と、監査品質の低下が関係していることが明らかとなっている。
一方で、中国企業を対象とした研究では、上記のような関係が観察されるのは、担当クライアントに対する業務執行パートナーの関与年数が短い場合だけであることが示されている。
オーストラリア企業を対象とした研究では、業務執行パートナーの業務負担量と監査品質低下の関係が観察されるのは、2002年から2004年という一時期だけであったことが示されている。この時期は米国でのSOX法の導入と、それに伴う他国での規制強化の煽りを受けて、オーストラリアでも規制が強化されたタイミングにあたる。
Suzuki and Takadaの仮説
(仮説1)業務執行パートナーの業務負担量の増加が監査品質を低下させる
日本以外の法域では、業務執行パートナーが1人である場合が多いため、注目する業務執行パートナーは、筆頭の業務執行パートナー(以下「筆頭パートナー」)のみとしている。
(仮説2)筆頭以外の業務執行パートナーの人数が多いほど筆頭パートナーの負担が少なくなる
(仮説3)監査事務所の担当継続年数が長いほど筆頭パートナーの業務負担が少なくなる
Suzuki and Takadaの監査品質指標
異常会計発生高(当期純利益における裁量的な歪み)
修正再表示(公表財務諸表が後に修正されたか否か)
業務執行パートナーや事務所の属性や、企業属性、決算月、業種、年など、監査品質指標として選択した変数に影響を及ぼす可能性のある他の要因は、可能な限りコントロールされている。
Suzuki and Takadaの結果
(異常会計発生高)
筆頭パートナーのその他クライアントの業務負担量が多いほど、監査品質は低下する
内部資源の利用可能性が十分でないクライアントからの業務負担料が多い場合にのみ、監査品質が低下する
(修正再表示)
業務執行パートナーの人数が2人以下であるその他クライアントからの業務負担が多い、または、パートナーの少なさに加えて監査事務所の継続年数が2年以下であるその他クライアントからの業務負担が多いほど、監査品質が低下する
Suzuki and Takadaの結論
筆頭パートナーの過重な業務負担は監査品質を損なう恐れがあるが、これは、特に内部資源の利用可能性が十分でないクライアントからの業務負担による影響が大きいと考えられる。
感想
私が新人として監査法人に入所した頃は、パートナーになると「一丁上がり」感がありましたが、それも完全に過去の話で、現在はかなり様々な業務に忙殺されているようです。
そんなこともあって、サインするパートナーが監査品質に及ぼす影響も、過去に比べて大きくなっていると思われます。
そういった意味では直感に反しない結果でありました。
対応策としては、新規監査契約締結から2年程度は監査チームの人数を厚めに手当てすることが考えられますが、(日本の場合)3月決算企業の場合はそうもいかないのが悩ましいところです。
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