日本企業のROE低迷の原因と対応~「企業会計」2024年12月号~
- 佐藤篤
- 1月7日
- 読了時間: 3分
「企業会計」2024年12月号の特集「成長投資と株主還元の最適解を探る」から「日本企業のROE低迷の原因と対応」(伊藤桂一)を読んでみました。
日本企業のROE低迷の要因
世界金融危機以降、日本企業のROEは確かに上昇基調にあるように見えるが、米欧企業よりはるかに低く、格差はほとんど縮小していない。
日本企業は売上高営業利益率と財務レバレッジについては米欧企業と比べてかなり低い一方、総資産回転率は高い傾向にある。
PBR1倍未満の銘柄群に限定すると、日欧企業でROEの格差は大きくない。財務レバレッジも日欧で大きな差はない。一方で、日本企業は総資産回転率が高く、売上高営業利益率が低いという傾向がある。これは事業ポートフォリオの中に収益性の低いものが多く含まれていることを示唆しており、事業再構築によりROEを改善できる可能性がある。
PBR2倍以上の銘柄群では、日本企業の財務レバレッジの低さが顕著である。十分な事業リスクを取っていないため、売上高が少なく、利益も少ないという構造になっている。負債の増加による事業規模の拡大が重要である。
ROEを高めてきた日本企業の株価とその手段
TOPIX1000除く金融・不動産を対象に、2005年から2023年までのデータを使った分析によれば、全銘柄を対象とした場合であっても、PBRが1倍前後の銘柄であっても、いずれもROE変化幅の回帰係数が有意に正であり、ROEを高めた企業では株価が上昇したことが確認できる。
係る企業はどのようにROEを高めたのか。マージン変化の回帰係数は有意に正である一方、レバレッジ変化の回帰係数は有意に負であり、これはPBRや期間を分けて分析を行っても得られる安定した傾向である。
日本企業はどのようにマージンを高めてきたのか。研究開発費と人件費の回帰係数が有意に負となり、研究開発や人件費を削減した企業で、売上高営業利益率が有意に上昇したことが示された。
日本企業の規模調整後売上高は、バブル崩壊前の1980年頃から一貫して減少している。一方で、この期間の経常利益は減少しておらず、1993年以降は増加基調にある。これは、日本企業がコストを削減することでマージンを高め、ROEを上昇させていたという分析結果と整合的である。
企業動向の変化
日本企業の資本効率の低さは、収益性の低さも一因だが、得られた利益が再投資に向かわなかったことも大きな要因である。
獲得した利益を現金の形で保有し、資本効率が上昇しなくても、コーポレートガバナンスが未整備だった時代には特に問題となることはなかったと思われる。
一方でこの構造は足元で大きく変化し始めており、今年度は純利益に対する総還元性向は6割近くに達すると見込まれている。ROE改善に対するプレッシャーが強まる中、自社株買いを積極的に実施することでROEを高めることを期待していると考えられる。
感想
デフレ経済下では名目ベースでの売上高が増えず、係る状況で利益を増やそうとすればコストを削るしかなく、また利益を現金で保有し続けることにも一定の合理性がありました。
それが現在は一転した訳ですから、企業が貯め込んでいた現金を投資や株主還元に回すのは当然のことで、結局のところ、企業は経済的合理性に基づいて行動してきたという、ごく当たり前の結論でありました。
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