日本で事業ポートフォリオの見直しが進まない理由~「企業会計」2023年8月号~
- 佐藤篤
- 2023年9月12日
- 読了時間: 3分
前回は「企業会計」2023年8月号の特集『中長期的な視点で考える「PBR1倍割れ問題」』から、何故東証は(ROE向上等ではなく)「PBR1倍割れ」にフォーカスしたのかについての考察を取り上げました。
今回は同じ特集の中から「企業価値を高める事業ポートフォリオ強化」(加来一郎、坂上隆二)を読んでみました。
当該記事では、日本で事業ポートフォリオの見直しが進まない理由が分かり易く解説されていたので、該当部分のメモ書きをシェアしたいと思います。
構造的要因
長らく日本では、資金の主な出し手はメインバンクであった。銀行にとっては企業が多角化されている方が望ましい(単一事業に比べて事業が安定するため、貸付金の返済リスクが下がる)。
社外取締役の機能不全。人数こそ増えてはいるが、多くの場合経営と関係の深い人物が選ばれて経営陣と同質化し、現状路線の見直しの機運が高まらない。
高度成長期からバブル崩壊にかけては、「市場成長=自社の成長」という図式が成立していた。そのような環境では、現場がオペレーションを磨き上げてオペレーショナル・エクセレンスを実現することが重視され、経営者が全体的な視点で「あるべきポートフォリオ」を考える必要がなかった。また、社長には事業成長させてきた人材が選ばれてきたため、事業の成長ステージを踏まえて位置付けを見直すという発想は生まれにくかった。
「成長の柱」の不明確さ
将来を確実に予想することは不可能なため、「成長の柱」として集中投資した事業が思い描いていたような結果を残せない可能性があり、自社の「成長の柱」を明確にすることは、想像以上に容易なことではない。
実行場面での困難さ
日本企業の意思決定の仕組みの中で経営者が物事を前に進めていくことは容易ではない。
再編の対象が祖業やかつての主力事業である場合、影響力を持つ先代社長や相談役の了解を取り付けるのは一苦労。
力の強い事業部門や、製造業であれば工場長などの現場の抵抗を受ける。
多くの企業は往々にして収益が悪化して追い込まれて初めて重い腰をあげるため、事業の買い手を探すのが容易ではない。場合によっては、自分たちでリストラして収益性を回復してからでないと売れないこともあるが、自ら手を汚すことはやりたくないという心理的抵抗もある。
感想
前回のエントリーの感想として、以下のようにコメントしました。
事業ポートフォリオや事業構造の大幅組替えによる企業価値向上が本筋だという点に異論はないのですが、ソニーや日立じゃあるまいし、そんなことが出来る人材を抱える企業がどれだけあるのだろう、と疑問を持ってしまいます。
今回取り上げた記事の著者は、お二人ともコンサルティング会社の方であり、(潜在的顧客である)経営者の能力については触れていませんが、有能な経営者であれば、クリアできる内容も多いように感じました。
とはいえ、メインバンク要因や時代背景要因など新たな気付きの多い記事でしたので、読んだ甲斐はあったと思います。
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