我が国の中小会社決算の信頼性~「会計・監査ジャーナル」2024年9月号~
- 佐藤篤
- 2024年8月30日
- 読了時間: 3分
「会計・監査ジャーナル」2024年9月号の連載「アカデミック・フォーサイト」は「中小会社決算の信頼性向上に必要な制度インフラ再整備」(越智信仁)でした。
当該論考から、現状分析の部分を取り上げます。
わが国における中小会社の決算開示
会社法上の決算公告制度が存在するが、ほとんど遵守されていないのが実情
この背景には、懈怠に対して罰則規定(100万円以下の過料)の適用がほぼないというエンフォースメントの不存在が与える影響が大きいとみられている。
日本では、EU各国のように登記所等における計算書類の公開が要求されていないため、実行的なエンフォースメントが行えない可能性が指摘されている。
日本において、登記所における公開が実現しなかった理由
1.登記所のキャパシティ不足
2.公開の必要性が乏しいこと
3.信頼できる計算書類でないものを公開させても無意味であること
4.中小企業の負担が重すぎること
上記理由への対策・反論
1.電磁的方法による提出及び公開
2.非上場中小会社といえども地域において一定の経済的存在感を有し、そうした先には外部利害関係者も存在しているのであるから、公開の必要性自体を認めないということは適切ではない。
3.公開を要求することによって計算書類の信頼性を高めるよう動機付けることができる
4.そもそも計算書類は税務申告目的等で作成されているし、電磁的方法による提出及び公開であれば国への手数料支払額も抑制することができる。
会社法上の大会社に対する会計監査人監査
EU会計指令による標準値(総資産400万ユーロ)は、1ユーロ=150円換算として約6億円であり、我が国の会計監査人監査を義務付ける閾値(資本金5億円以上ないし負債総額200億円以上)は、諸外国に比べて非常に高い
売上高、総資産、平均従業員数で決めることが多い諸外国に対して、資本金と負債総額で定めていることにも大きな特徴がある
まとめ
我が国においては、会計専門職による会計監査が義務づけられていない中小会社が、諸外国に比べて非常に多く存在する上、そうした先の多くで決算公告の財務開示すら行っていないことになる。
感想
決算公告制度がほとんど遵守されていないということ、諸外国より会計監査の義務付け範囲が狭いことを初めて知りました。
中小企業の決算書については、そもそもどの程度信頼できるのか会計監査の現場でも悩まされることがあります。
実現へのハードルは高いでしょうが、決算公告制度の実効性向上や会社法監査の範囲の拡大方向への見直しが必要だと感じています。
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