大量保有報告制度と違反事案~「会計・監査ジャーナル」2025年1月号~
- 佐藤篤
- 2月21日
- 読了時間: 3分
「会計・監査ジャーナル」2025年1月号に「証券取引等監視委員会における大量保有報告制度違反事案への対応について」(横山亞希子、澤村泰行、坂部裕哉)が掲載されておりました。
会計監査人の立場としての会計士が大量保有報告書関連実務に関わることはないため、意外とこの辺りの知識が希薄なこともあり、読んでみることにしました。
(以下「法」は金融商品取引法を指します)
制度概要
法人・個人にかかわらず、下記2点に該当した場合、原則として該当した日の翌日から5日以内(土曜、日曜及び祝日等を除く)に、大量保有報告書又は変更報告書を提出しなければならない
1.上場会社の株券等の保有割合が5%を超えた場合;大量保有報告書
2.大量保有者となった日の後、当該株券等の保有割合が1%以上増減した場合、その他の大量保有報告書に記載すべき重要な事項の変更があった場合;変更報告書
株券等の保有割合の計算にあたっては、共同保有者(法第27条の23第5項)の保有株券等の数も加算するものとされている(共同保有者との間で引渡請求権などの権利が存在するものを除く)
法第27条の23第6項、金融商品取引法施行令第14条の7に規定する所謂「みなし共同保有者」については、現在、金融庁において、役員兼任関係や資金提供関係などの一定の外形的事実がある場合に「共同保有者」とみなす規定の拡充が検討されている。
訂正報告書の対象にもなる
現状の問題点
2008年の法改正後も、法令の不知及び理解不足等により、年間約1,500件の大量保有報告書等の不提出が相次いでいる。
一部には故意の不提出や著しい提出遅延の存在もうかがわれた一方、大量保有報告書等の不提出及び虚偽記載等に対する課徴金の命令の発出件数は、法改正後、2022年まで、数件にとどまっていたため、大量保有報告制度の実効性が確保されていないのではないかとの指摘があった。
課徴金額
大量保有報告書又は変更報告書を提出しなかった場合、当該株券等の発行者の時価総額の10万分の1の額
重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている大量保有報告書、変更報告書若しくはこれらの訂正報告書を提出した場合、当該株券等の発行者の時価総額の10万分の1の額
大量保有報告書等の不提出及び虚偽記載等の事案は、課徴金の加算・減算制度の対象となる。例えば、過去5年以内に法に基づき課徴金納付命令を受けた者が、大量保有報告書の不提出及び虚偽記載に及んだ場合、納付命令される課徴金の額は上記により算出される額の1.5倍となる。
株式会社サカイホールディングス(以下「サカイHD」)にかかる事例
サカイHDの株主である非上場会社D及び非上場会社Eは、DがサカイHDの取締役の選任に係る議案を提出し、Eが当該事案に賛成するとして、共同して株主としての議決権を行使する旨を合意し、共同保有関係にあったにもかかわらず、提出すべき大量保有報告書及び変更報告書を法定提出期限までに提出しなかった。
当事例は、法第27条の23第5項で定める、共同して議決権を行使することを合意している場合に該当するとして、D及びEがそれぞれの共同保有者であると認定した初めての事案である。
感想
金商法全般に言えることですが、課徴金額が低い印象があります。10万分の1から1万分の1にするだけでも、かなり違反を減らせる気がするのですが。
それと、海外勢の違反をどの程度摘発できるのかも気になります。
また、サカイHDの事例については、同様の取引が巷に大量に存在しそうであり、今後どのような展開をみせるのか、興味深いところです。
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