報酬依存度規制強化の影響~「企業会計」2022年10月号~
- 佐藤篤
- 2022年10月11日
- 読了時間: 3分
更新日:2023年1月23日
今回の公認会計士に係る倫理規則の改正が中小監査事務所に及ぼす影響の大きさがよく分かる記事でした。
「企業会計」2022年10月号『「報酬依存度」規制強化が招きうる監査難民問題』(柳澤義一)を読んでみましたので、概要と感想です。
倫理規則の背景
そもそもIESBAで報酬依存度に関する規制の改訂がなされた。これによれば、監査意見を表明する会計事務所等の総収入のうち、特定の監査業務の依頼人からの総報酬が占める割合を倫理規則では報酬依存度と呼んでいるが、大会社等(公認会計士法上の大会社に加え各会計事務所が追加的に大会社等と同様に扱うこととした事業体)からの報酬依存度が5年連続で15%を超える場合には監査人を強制辞任することが要求されている。また、大会社等以外からの報酬依存度においても一定の規律強化がなされた。
今回の日本公認会計士協会の倫理規則もこれに倣った改正となった。
監査業務の依頼人が大会社等である場合
1.報酬依存度が2年連続15%を超えるか、超える可能性が高い場合
セーフガード
改正前は監査意見表明前のレビューまたは監査意見表明後のレビューで良かったものが、改正後は監査意見表明前のレビューのみとなった。
開示
監査報告書に開示。日本特有の規定。
2.報酬依存度が5年連続15%を超えるか、超える可能性が高い状況が継続する場合
セーフガード
5年目の監査意見の表明後に監査人を辞任しなければならない。比較的小規模な中小監査事務所にとっては死活問題。
例外
公共の利益の観点からやむを得ない理由があり、一定の条件を満たす場合には、5年経過後も引き続き監査業務を継続することが認められる。
監査業務の依頼人が大会社等でない場合
1.報酬依存度が5年連続30%を超えるか、超える可能性が高い場合
セーフガード
監査意見表明前のレビューまたは監査意見表明後のレビューを受ける。
青山学院大学の牟禮恵美子准教授の研究
我が国の資本市場に関わる中小監査事務所の60%ほどの事務所が15%超の報酬依存度の規制対象となる可能性があり、その監査先数は100社近くになるのではないか、とのこと。
わが国の中小監査事務所において大会社等の監査報酬の比率が高くなる理由
諸外国と比較して大会社等以外の法定監査が少なく、結果として監査報酬の大半が大会社等の監査報酬となってしまう。
税理士制度により、税務業務を監査事務所では出来ないため。
15%超の報酬依存度による3つのインパクト
規模拡大を目指すために無理な業務受注がなされるリスク
新規参入障壁となり、監査人材育成に繋がらなくなるリスク
監査難民を生む可能性
感想
大手監査法人・準大手監査法人や税務業務メインで法定監査は小規模な業務しか請けていない個人事務所には実質的な影響はなく、中小監査事務所が狙い撃ちされたかのような改正になっています。もちろん意図的なものではないのでしょうが。
15%を下回らせるために監査報酬を表向き減額したり、会計事務所間で循環取引したりといった不正が頻発するかも、というのは悪い冗談ですが、頭を抱えている監査事務所は少なくなさそうです。
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