四半期報告書廃止の経緯と今後の方向性~「企業会計」2022年7月号~
- 佐藤篤
- 2022年8月9日
- 読了時間: 3分
更新日:2022年9月15日
現在、四半期開示制度の見直しの議論がすすめられています。
その経緯と方向性に関連して、「企業会計」2022年7月号にスズキトモ氏のインタビュー(2022年5月9日時点)が掲載されておりました。
四半期開示制度の見直しが表明された要因
「実務的に非常に大変、目的がわからない、役に立っている感覚がない」といった産業界からの声があった。
四半期開示制度は2000年代初頭に貯蓄から投資への転換が促進される中で導入された。個人の金融資産を企業へ投入させて、それを生産性向上や生産設備投資の拡大につなげたいという思惑があったが、実際には個人投資家は大して増加せず、外国人投資家が多くなっている。その結果、発行市場が発達するよりも、寧ろ配当と自社株買いによる株主還元が多くなった。
1991年頃に急に企業の資金繰りが改善し、2000年頃、すなわち四半期開示が導入された頃には企業は資金余剰状態にあり、そもそも企業がエクイティファイナンスを必要としていなかった。その結果、現状の四半期開示制度は発行市場ではなく流通市場のためのイベントとなっている。
四半期開示制度が日本でスタートした経緯
四半期開示はそもそも東証が1999年にマザーズの上場企業に対して義務づけていた。
2006年1月のライブドア事件において、四半期開示が東証のルールでしかなく、法定制度として導入されていなかったために四半期業績の虚偽記載ついて法的責任が問えなかったと指摘されたことから、四半期報告書制度が導入されたらしい。
今後の展開
四半期報告書を廃止する一方で決算短信を強化し、且つ四半期レビューを義務付ける案。事務作業の軽減に繋がらない。
四半期決算短信の内容を臨時報告書として四半期ごとにEDINETに掲載させる案。法の下の罰則規定の適用を企図している。企業側が四半期レビューをつけて責任回避行動をとる可能性があり、結局事務作業軽減にならなくなる。
中間監査と半期報告書を復活させる案。そうなるくらいなら今まで通りの方が事務負担は少ない位で、寧ろ事務負担の増大につながる。
感想
会計士の一人としてこんなことを言っていいのかわからないのですが、四半期決算に関しては、決算短信は見ても四半期報告書を見ることはほとんどありません。
そんな訳で四半期報告書は廃止もしくは第二四半期だけにしてもいいのではないかと思っています。
今後の展開としては臨時報告書案が今のところ有力そうな印象です。
ただ、決算短信に任意とはいえ四半期レビューをつけると、速報性が損なわれることになり、それはそれでどうなのだろうとも思います。
加えて、現行制度ではゴルフ場等株主数要件で有価証券報告書の提出義務がある企業体がありますが、半期報告書の提出も義務付けられています。
例えば、四半期開示制度が見直された結果として上場企業が第二四半期レビューだけになる一方、ゴルフ場等は引き続き半期報告書の提出が義務付けられるままだとすると、本来開示自体に重要性がある上場会社よりもゴルフ場等の方が制度上厳しい取扱となるという一種の矛盾が生じることになります。
この辺りの取扱いも併せて見直すべきだと思います。
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