内部留保は打ち出の小槌?~「企業会計」2023年3月号~
- 佐藤篤
- 2023年4月11日
- 読了時間: 2分
「企業会計」2023年3月号の連載記事OUTSIDEは「内部留保は打ち出の小槌か」(前田昌孝)でした。
以下、記事のメモ書きと感想です。
岸田政権が企業に物価上昇率を上回る賃上げを求めているが、政策当事者からは「ため込んだ内部留保を賃金に回せばいい」との声も出ている。
内部留保を、企業が手元に持っている現預金とする誤解が広まっている。
金融・保険を除く全産業が保有する現金・預金の総額は、内部留保である利益剰余金の総額に比べてかなり少ない。
2022年9月末現在資本金1,000万円以上の全企業の利益剰余金総額は530兆円、現金・同等物の総額はその46%に当たる246兆円に過ぎない。
資本金10億円以上の大企業は利益剰余金の総額が275兆円なのに対し、現金・同等物の総額は77兆円弱に過ぎない。
一方で資本金10億円未満の企業は利益剰余金の総額が254兆円なのに対し、現金・同等物の総額は169兆円もある。さらに細分化すると、資本金額が小さいほど内部留保を現金・同等物として持つ傾向が高くなっている。「ため込んでいる」のではなく「逆風に備えている」のではないか。
岸田政権は、企業が賃上げに消極的ならば、内部留保課税でも導入して、企業に内部留保を吐き出させようと考えているようである。
赤字になる程給料を従業員に支払えば内部留保は減るが、その妥当性を株主から厳しく問われるであろう。
大半の企業は「賃上げを強要されるのならば、生産性が上がらない社員には辞めてもらおう」と動くのではないか。
結論としては、企業への賃上げ要請はよいとしても、賃上げに後ろ向きならば、内部留保に課税するという展開だけは避けた方が良いだろう。
感想
「内部留保を、企業が手元に持っている現預金とする誤解」は何とかならないものかと私も思っていましたが、最近は「誤解」であることを分かっていて、わざとそう言っているのではないかと感じるようになりました。
法人税率のアップが難しいなら、留保金課税を拡大・強化して賃上げに繋げたいという発想なのかも知れません。
一方で東証がPBR1倍割れ企業へ何らかの対策を行うよう要請していますが、これも結局のところは内部留保の取扱いの話になる訳です。
企業のステークホルダーである株主と従業員との間での分配を巡る争い、という古典的な構図の現れのように感じます。
Comments