共通株主の存在が会計情報に与える影響~「企業会計」2024年6月号~
- 佐藤篤
- 2024年8月9日
- 読了時間: 3分
「企業会計」2024年6月号の連載「会計時評」は「共通株主と会計情報」(榎本正博)でした。
なかなか面白い研究があるものだな、と感心しながら読みました。
以下、メモ書きです。
共通株主とは
同一業種内の2社以上で大株主となっている投資家
インデックス型投資信託の増加により、共通株主は増加傾向にある。
仮説1
ある企業の株主が共通株主であれば、激しい競争を経て当該企業の市場シェアが上昇し利益が増加しても、同時に保有する同業他社の市場シェアや利益を減少させるため、共通株主のポートフォリオ全体の利益が増加するとは限らない。そのため共通株主は、積極的に価格競争や研究開発競争から利益を得られなくなり、競争意欲が減退する。
仮説1に係る研究結果
米国の航空業界に対する共通株主への持分集中度と航空運賃の関係の検証の結果、共通株主の影響で航空運賃は3%から7%高くなっていることを示した研究結果がある。
日本では、銀行合併によるメガバンクの誕生により共通株主の程度が大きくなった企業ではROAが上昇していたが、非製造業において研究開発に対するマイナスの効果を報告した研究結果がある。
仮説2
共通株主は業種内の複数企業の株式の所有から、共通株主でない大株主よりも当該業種の専門的知識を有し、当該企業に対するモニタリングが他企業へのモニタリングを効率化させ、そのコストを下げることができる。従って共通株主は単なる大株主よりも、各企業のコーポレート・ガバナンス等に大きな影響を与える。
仮説2に係る研究結果
共通株主が株主総会においてより強くモニタリングしていることを示した研究結果があり、他の文献でもガバナンス効果が観察されている。
仮説3
第1の予測
共通株主は発言や退出を通じたより強いガバナンス効果を背景に、企業に高い会計比較可能性を求めるインセンティブを有し、企業も、他の機関投資家よりも共通株主の要求に応える可能性が高くなる。
第2の予測
共通株主は、産業固有・企業固有の私的情報へのアクセスと処理能力に優れるため、私的情報からの情報優位を維持するため比較可能性の低い情報の開示を容認するかもしれない。
また、インデックス・ファンドを多く保有するので投資先企業への積極的な関与を行わないこともあり得る。
仮説3に係る研究結果
第1の予測と整合的で、共通株主の存在が比較可能性を高めていたとする研究結果がある。
さらに営業の不確実性、情報の不透明性が高いほど共通株主と比較可能性の関係が強くなっていたとする研究結果もある。
共通株主の存在によるのれんの減損、他の資産の評価損、非経常的項目に関する比較可能性の上昇を示した研究結果もある。
これらの結果は、共通株主の存在による会計情報の有用性の上昇が、モニタリング・コストが高い局面で顕著であると解釈できる。
感想
直感的には、インデックス・ファンドでは投資先企業へのモニタリングがおざなりになる気がしますが、案外そうでもないのかも知れません。
低コストなインデックス・ファンドへの投資がブームのようになっていますが、そのことが、結果として日本企業のコーポレート・ガバナンスの強化に繋がっているとすれば、面白い現象だと思います。
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