上場会社の非公開化をめぐる近時の主な論点~「企業会計」2024年9月号~
- 佐藤篤
- 2024年10月4日
- 読了時間: 5分
このところ、㈱ティーガイアを対象会社としたディスカウントTOBが話題になっていますが、「企業会計」2024年9月号の特別企画「上場のメリット・デメリット2024」に「上場会社の非公開化をめぐる近時の主な論点」(保坂泰貴)が掲載されていましたので、読んでみました。
二段階買収に関する論点
一段階目として公開買付けを行うことによって議決権保有比率を高めた上で、二段階目としてスクイーズ・アウト手続(会社法上の株式併合または株式等売渡請求の手法による、公開買付に応募しなかった株主の締め出し)を行うことによって対象会社の株式全部を取得する手法。
近時は、大株主である法人株主が存在する場合において、通常の二段階買収に自己株式取得等の別の取引を組み合わせたスキームが採用される事例も多い(法人税法に定めるみなし配当の益金不算入規定が適用されることによる税務メリットを企図したもの)。
1.強圧的二段階買収の問題
一段目の買付け条件を有利に、二段階目の買付け条件を不利に設定する、あるいは明確にしないで行う買収については、不利益を受ける前に株式を売却してしまおうという動機が株主に生じる点で、強度の強圧性がある。
実務上は、このような問題が生じないように、スクイーズ・アウトを行う場合の価格は公開買付け価格と同一の価格を基準にするとともに、その旨を開示書類等において明らかにしている事例がほとんどである。
2.「公正な価格」の問題
会社法は、スクイーズ・アウトの価格の公正さを裁判で争う権利を認めている。
具体的には、株式併合に反対する株主は、株式買取請求権を行使した上で、裁判所に対して株式の価格の決定を申し立てることができる。また、株式等売渡請求についても、売渡株主等は裁判所に対して売買価格の決定の申し立てをすることができる。
MBO・支配株主による完全子会社化に関する論点
1.構造的な利益相反の問題
MBOや支配株主による買収においては、対象会社の経営陣や取締役が、買収者と一体である(MBOの場合)または買収者から一定の影響力を受ける立場にいる(支配株主よる買収の場合)という構造上の特殊性が存在するため、経営陣・取締役や支配株主が会社の情報を利用して、一般株主に不利なタイミングや取引条件で買収が行われるリスクがある。
係るリスクへの対応として、金商法は、MBOや支配株主による買収の一環として行われる公開買付けについて、十分な開示を求めている。
東証の有価証券上場規定上も、MBOや支配株主による買収の対象会社に対して、必要かつ十分な適時開示を行うことを義務付けている。特に、支配株主による買収の場合には、支配株主との間に利害関係を有しない者から、少数株主にとって不利益なものでないことに関する意見を入手することを義務付けている。
実務上は、経済産業省が2019年に算定した公正M&A指針が重要な拠り所となっている。
当該指針は、構想的な利益相反のある取引において一般株主の利益を確保するための公正性担保措置の在り方を、ベストプラクティスとして提示しており、指針を遵守することで、事後的な訴訟リスクを減少させるという事実上の効果が期待できる。
2.特別委員会の役割
近時は、対象会社側での検討や買収者との交渉等において、特別委員会が主体的かつ重要な役割を果たすようになってきている。
裁判においても、特別委員会による検討や交渉過程に関して審査に重点が置かれる可能性が出てきている(例 ファミリーマート事件 東京地決令和5年3月23日)。
3.対抗提案の出現を見据えた対応の必要性
当初のMBOが公表された後の段階で、新たな対抗提案がされる可能性が現実化している。
対抗提案がされることにより取引条件が異なる複数の提案が提示された場合、対象会社の取締役会や特別委員会として、株主の利益に配慮しているか(価格等の取引条件について最善の選択をしているか)という問題が特に顕在化しやすい。結果として、当初のMBOの価格が十分であったか、特別委員会を含めて価格引き上げのための十分な交渉が行われたか、といった問題が事後的に顕在化する可能性も否定できない。
買収者が対象会社との間で、対抗提案者との接触等を制限するような「取引保護条項」を合意することがあるが、そのような合意においても、仮に対抗提案者が出現した場合に対象会社として十分な協議や検討を行うための一定の裁量を残しておくことが肝要である。
4.ネガティブ情報の開示
近時の事例の中には、会社の業績の大幅な下方修正後にMBO等を実施しているケースが見られ、投資家等の関係者からは、意図的に市場株価を引き下げているのではないかとの疑義が指摘されることがある。
そのようなタイミングでM&Aを行うことを選択した場合は、その背景・目的等に関する丁寧な説明が求められ得ることに留意する必要がある。
感想
上場会社の非公開化の場面において、少数株主が対抗出来ることは、制度上は整備されていますが、実質的にはほとんどないに等しいと感じています。
これでも昔よりは大分マシにはなりましたが。
一時ほどではないにせよ、為替水準はまだ円安といえそうですし、㈱ティーガイアのようなTOBが今後も出てくるかもしれません。
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