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リース会計の改正論点~セール・アンド・リースバック~「企業会計」2021年11月号

  • 佐藤篤
  • 2021年12月17日
  • 読了時間: 5分

更新日:2022年6月26日

前3回に引き続き、「企業会計」2021年11月号上で特集されていた「新たなリース会計基準5つの論点」に係るエントリーです。今回は当該特集内の一記事「リース会計処理の課題:セール・アンド・リースバック」を取り上げます。


日本の現行規定

  • 通常のリースバックはオペレーティングリースバックであることが一般的で、そのため「セール」の成立を妨げることがあまり想定されていない。リースバックがファイナンスリースバックとなる取引もあるが、その場合でも必ずしも「セール」が否認されるわけではない。

  • 売手=借手は資産の売却に伴う損益を長期前払費用または長期前受収益として繰延処理し、リース資産の減価償却費の割合に応じ、減価償却費に加減して損益に計上する。


IFRSの規定

  • セール・アンド・リースバックの定義自体に日本基準と実質的な差異はない。

  • 対象資産の譲渡がIFRS第15号の要件を満たすかどうかがポイントとなっている。この点、日本の収益認識基準はIFRS第15号の基本原則を取り入れつつも代替的な取り扱いが追加されているため、IFRSと判断が異なってくる可能性がある。

  • 「セール」が成立する場合でも、ファイナンスリースとオペレーティングリースの会計処理上の違いがないことから、リースバックの分類によって売却損益の全額繰延と全額認識とに二分するような考え方は取られていない。

  • リースバックによって「売手に保持される部分」については実質的に売却されていないものとし、リースバックを通じて獲得した使用権資産を、売却資産の帳簿価額のうち「売手に保持される部分」で測定し、売却損益は「買手に移転された権利」に対応する部分のみを認識する。

  • 売手に買戻し権のあるセール・アンド・リースバックは、買手に資産の所有に係る支配が移転しておらず「セール」の成立を満たさないとして金融処理することが求められる。


IFRSと米国基準の違い

  • 売手に買戻し権が付与されている場合の取り扱いにおいて、米国基準では一定の要件を充足した場合、売却が認められるケースがある。

  • リースバックがファイナンスリース取引に該当する場合には米国基準では売却が認められない。IFRSではそのような明示的な規定はないが、実質的にはファイナンスリースバックを伴うような売却の場合、IFRS第15号で支配の移転が認められることは想定しづらいため、実質的な差異は存在しないといえる。

  • 売却が認められる場合でも、リースバックを通じて使用権が売手に保持される部分についてIFRSでは売却損益を認識できないが、米国基準では売却が認められれば売却損益はその全額が認識される。これが最も重要な差異。


IFRS第16号改訂の公開草案

現行IFRS第16号の問題点

  • IFRSは「売手である借手はリースバックから生じた使用権資産を資産の従前の帳簿価額のうち売手である借手が保持した使用権に係る部分」で測定しなければならないとしているが、その「借手が保持した使用権に係る部分」をどのように計算するかを規定していない。

改訂提案の内容とそれに対する反応

  • リースバック取引において売却した資産のうち売手である借手に保持される部分の割合の算定は、市場価格による見込支払リース料をリースの計算利子率または借手の追加借入利子率で割り引いた現在価値を資産の公正価値と比較することで行う。

  • セール・アンド・リースバック取引から生じるリース負債は市場価格による見込支払リース料をリースの計算利子率または借手の追加借入利子率で割り引いた現在価値で測定するものとし、以降リース期間の見直しやリースの条件変更その他によりリース負債が再測定される場合も見込支払リース料に基づく測定を継続する。

  • 上記の提案は、通常のリースとセール・アンド・リースバックにより開始されたリースとの間に異なる測定方法を設けるものであることから、支持を集めることができなかった。IASB審議会では現在異なるアプローチを含めてどのような解決が可能か検討中である。


その他の論点

  • 高額での譲渡&リースバックは買手から売手の融資とその返済として扱い、また低廉譲渡&リースバックは賃料の前払として扱わなければならない。現行日本基準にはこのような取り決めはない。

  • 売手がマンションを建設し買手に引き渡すと同時にリースバックするケースで、売手の収益認識が「一定の期間にわたり履行義務が充足されるケース」(収益認識基準第38項)に該当する場合の取扱い

  • マンションの建設から引渡しに関する契約を締結する時点でリースバックに関する契約を締結しないもしくは条件の詳細を別途協議としている場合の取扱い


ASBJでの検討状況

  • セール・アンド・リースバック取引に係る売却損益の取扱いについてはIFRSと米国基準で考え方は異なるが、改正リース会計基準の基本方針からIFRSの会計処理を取り入れることを検討している。

  • 一括借上契約と建設請負工事が同時に締結されるケースについてはセール・アンド・リースバック取引の会計処理の対象とすることがIFRS第16号と整合的だが、工事請負契約による利益の取り扱いと不動産の建設が一定の期間にわたり充足される履行義務に該当する場合の「売却」の時点(借手の使用権資産に対する支配獲得時点)については要検討としている。


感想

セール・アンド・リースバック取引の会計上の問題点は「セール」時の売却損益の実現性にある訳で、一会計士としては抜け道の無いような基準改正にしていただきたいと思います。






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