テキストマイニングによる有報分析~「企業会計」2022年2月号~
- 佐藤篤
- 2022年3月11日
- 読了時間: 3分
「企業会計」2022年2月号の特集は「テキストマイニングによる有報分析」でした。
そもそもテキストマイニングとは何ぞやと思い検索してみたところ、「定型化されていない文章の集合からなるテキストデータをフレーズや単語に分解して詳細に解析し、有用な情報を抽出する分析手法」(㈱日立ソリューションズ・クリエイトのHPより)とのことです。
従来の人手による有報の定性的情報分析は、どうしても物理的限界がネックになり特定のテーマに絞ったものになりがちですが、AI技術を活用することで様々な視点での分析が可能となり、対象企業も気が付いていない「クセ」のようなものも見えて来そうで楽しみな分野ではあります。
そういうわけで。早速当該特集の一記事「自然言語処理の発展と有用性」を読んでみました。
「事業等のリスク」
経営成績に関するテキスト情報の積極的な開示がマーケットからプラスに評価されること、「事業等のリスク」の開示量がアナリストの予測精度に影響を与えることが確認されている。
米国のForm10-Kのリスクファクター開示の分析によれば、経営者は直面しているリスクを有意義に反映した開示を行っていること、さらにその情報が投資家にとって既知の情報だけでなく、追加的な情報を持つことが示されている。
日本の有報の分析によれば、市場リスクに関する用語の出現確率は、株価に反映される市場リスクの指標である市場ファクターと正に相関することが確認された。
2020年3月期から有価証券報告書の「事業等のリスク」の充実が図られたが、それ以前の記載から得られる情報は、翌朝の企業リスクを予測する上で市場に認識されている以上の情報を持つとは言えなかったが、この原因は事業等のリスクの記載が年度ごとにほとんど変化しない企業が多かったためと考えられる。
2020年度に「事業等のリスク」の記述を充実させた程度が大きな企業ほど、有価証券報告書開示後の当該企業の株式の市場流動性が改善することが確認された。理由は記述内容の充実を通して、企業経営者と投資家の間の情報の非対称性が一定程度解消されることで、投資家の情報劣位状態の懸念が低下し、当該企業の株価の流動性が相対的に改善するという予測に基づいている。
M&A
米国企業の10-Kの製品概要欄を用いたテキスト分析結果によれば、企業間の製品類似性が高いほどM&Aが起こる可能性が高いことが確認されている。
異なる産業分類に属し、一般に多角化M&Aに分類されるM&Aであっても、事業や技術の関連性の高い企業同士ではM&Aの発生確率が高いことが示され、いわゆる関連多角化M&Aの発生を予測可能であることが示された。
感想
有価証券報告書の主たる利用者である投資家にとって「事業等のリスク」の記載は、定性的情報の中では最も気になるパートの一つだと思いますが、その記載内容が株式の市場流動性の改善に繋がるという結果は正直想定以上でした。
経営者によっては何も書くことはないという態度の方もいますが、マイナスになることはありませんので、ある程度しっかり書いておきたいところです。
また、M&Aの発生確率まで推測できるというのは驚きました。
このテキストマイニングが浸透してくれば、直感的には違和感を覚えるような多角化M&Aが散見される時代が来るかもしれません。
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