コロナ感染症への3月決算対応
- 佐藤篤
- 2021年3月9日
- 読了時間: 4分
2021年3月号の会計監査ジャーナルで「今3月期決算の実務ポイント」と題した特集が組まれています。
2021年3月期は来季に収益認識基準の適用を控えてさほど大きな変更点はないのですが、何といってもコロナ感染症の影響をどう財務情報に反映させるかという論点が継続しておりまして、当該特集のトップ記事(以下、当特集記事)もコロナ感染症の影響に関するものでした。
いくつかその記事の中で気になった点をメモ程度に触れたいと思います(私が個人的に気になった部分をメモしたものであり、当特集記事で触れられている全ての項目について記載している訳ではありません)。
第一に、2020年7月22日に日本公認会計士協会から「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項」が公表されています。その中で、政府や地方自治体による要請による店舗の営業停止や工場の操業停止時の固定費等について臨時性があるとして損益計算書の特別損失での計上も認められていますが、その範囲はあくまでコロナ感染症の拡大防止のための営業停止・操業停止に限られ、それに関連しない経常的な経営活動に伴う業績不振等による損失が特別損失に計上されることがないよう留意が必要であると明記されています。
コロナ感染症が流行する前から消費増税等の影響で業績が低調だった企業や1回目の緊急事態宣言解除後も業績が元に戻らない企業は決して少なくないと思います、そういった企業が政府や地方自治体からの要請とは無関係な工場の操業停止や店舗の営業停止に係る固定費を特別損失に振り替えるのは会計的にはアウトということになります。
被監査会社も監査人も特別損失に振り替える原価の範囲については早目に打ち合わせておきたいところです。
第二に、上記のように営業・操業停止中の固定費を特別損失へ計上した場合における固定資産の減損の兆候判定にあたって、「営業活動から生ずる損益」から当該特別損失を除くことは適切ではないとされています。これは、損益計算書上は原価性を有しないものとして営業損益に含まれていない項目でも、営業上の取引に関連して生じた損益は「営業活動から生ずる損益」に含まれるとされているためです(減損適用指針第12項(1)参照)。
また、決算日後に緊急事態宣言等で営業・操業停止した場合、将来キャッシュフローの見積にその影響を折り込むことが考えられる、とも当特集記事には記載されていました。これは3月決算会社よりも12月決算会社がこの状況に該当していた訳ですが、実際どうだったのでしょうか。
第三に、雇用調整助成金の計上区分についてです。
この点、明文規定はないのですが、当特集記事では総額表示の原則(企業会計原則第二1B)に基づいて原則として営業外収益に計上するとされています。
売上総利益や営業利益を良く見せたい企業が、明文規定のないことを理由に人件費のマイナスとして計上しようとすることが想定されますので、監査人としては注意が必要です。
第四に、繰延税金資産の回収可能性判断についてです。
分類4から分類3へのいわゆる反証規定である回収可能性適用指針第29項の適用について、翌期は一時差異等加減算前課税所得が生じず、翌々期以降継続的に一時差異等加減算前課税所得が生じることとなるようなケースでは、回収可能性適用指針第29項の要件を満たさないと考えられ、少なくとも翌期を含めて3年は一時差異等加減算前課税所得が生じる必要があるとされています。
厳しいなあ、とも思いましたが、2期連続で一時差異等加減算前課税所得が発生しなければそれはもはや一過性とは言えないわけで、これも当然といえば当然の判断だと思います。
最後に開示についてですが、会計監査人設置会社については会社法計算書類にも見積開示会計基準の関連注記が必要とされています(会社計算規則第102条の3の2第1項)。
意外と忘れがちなので気を付けたいところですが、2020年8月12日に法務省から「「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」が公表されており、記載の要否に関する考え方が示されているので、そちらも参照されることをお勧めします。
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