IFRS第16号「リース」適用の影響をみてみました~日本航空株式会社の事例~
- 佐藤篤
- 2021年12月24日
- 読了時間: 4分
5回に亘って「企業会計」2021年11月号のリース基準の改正に関する特集記事を取り上げました。
その2回目は借手企業に与える影響についての記事でしたが、その記事でリース基準改正の影響が大きい業種の一つとして空運業が取り上げられていました。
日本の空運業の代表的存在といえば日本航空株式会社(以下「JAL社」)ですが、そのJAL社が、2019年4月1日を移行日として、会計基準を日本基準からIFRSへ変更しています。
IFRSのリース基準の影響がいかほどのものか参考になると思い、JAL社の2021年3月期有価証券報告書のIFRS初度適用に関する記載をみてみました。
JAL社の初度適用方針
37.初度適用_(1)IFRS第1号の免除規定にリースについても免除規定を適用している旨記載されています。
読んでみますと、
特性が合理的に類似したリースのポートフォリオに同一の割引率を適用している旨
IFRS移行日から12か月以内にリース期間が終了するリースについて使用権資産を認識する要求事項を適用していない旨
原資産が少額資産のリースの免除規定の適用要件を満たすリースについては免除規定を適用している旨
の記載がなされています。
これを前提に以下、影響をみていきます。
2019年4月1日(IFRS移行日)時点の金額的影響
37.初度適用_(3)調整表_2019年4月1日(IFRS移行日)現在の資本に対する調整(以下「移行日調整表」)をみてみます。
有形固定資産の認識および測定の差異欄で航空機が614億円、その他が208億円、合計で822億円増加しています。
この増加の内容について、移行日(2019年4月1日)現在の資本に対する調整に関する注記_b.認識および測定の差異_(b)IFRS第16号「リース」をみてみますと、日本基準で賃貸借処理をしていた航空機と各種設備などについて、要件を満たすものを使用権資産及びリース負債を認識している旨記載されています。従って、有形固定資産の認識および測定の差異欄の増加額822億円は全てリース関連の調整と確認できます。
一方、リース負債については、移行日調整表の認識および測定の差異欄において、短期の有利子負債が224億円、長期の有利子負債が595億円、合計819億円増加しており、有形固定資産の増加額とほぼ一致していることが確認できます。
2019年4月1日時点での日本基準でのリース債務は短期24億円、長期25億円、合計49億円です。また、負債合計は8,301億円です。
IFRS移行に伴うリース負債の増加だけで負債合計額が約10%アップした計算になり、かなり影響は大きかったと言ってよさそうです。
セール・アンド・リースバック
JAL社では2020年3月期において、日本基準では売却処理が認められるがIFRSでは認められないセール・アンド・リースバック取引があったようです。
前連結会計年度末(2020年3月31日)現在の資本に対する調整に関する注記_b.認識および測定の差異_(b)IFRS第16号「リース」に以下の記載がなされています。
(前略)また、日本基準において売却処理をしていた航空機のセール・アンド・リースバック取引のうち、IFRS第15号の要求事項を満たさず、資産の譲渡を売却として会計処理しないものについては、IFRSでは航空機を引き続き認識し、売却収入と同額の借入金を認識しております。(引用終わり)
加えて、前連結会計年度(自2019年4月1日至2020年3月31日)のキャッシュ・フローに対する調整に関する注記_a.表示組替_(b)セール・アンド・リースバック取引の売却収入に係る組替では、以下のように記載されています。
日本基準において売却処理をしていた航空機のセール・アンド・リースバック取引のうち、IFRS第15号の要求事項を満たさず、資産の譲渡を売却として会計処理しないものについて、日本基準では売却収入を投資活動によるキャッシュ・フローに区分しておりましたが、IFRSでは航空機を引き続き認識し、売却収入と同額の借入金を認識していることから、売却収入を財務活動によるキャッシュ・フローに区分しております。(引用終わり)
JAL社の意図はわかりませんが、何とも微妙なタイミングでのセール・アンド・リースバック取引になってしまいました。ただ、結果として良い開示事例になったとは言えそうです。
まとめ
JAL社のケースは日本基準からIFRSへの移行であり、且つ日本のリース会計基準の改正は現在進行中であることから、日本基準の改正後にこれと同じ会計処理や注記が求められるわけではありません。しかし、日本基準の改正はIFRSへの準拠を基本方針としていること、転リースを除けばセール・アンド・リースバック取引含めほぼ全ての論点が網羅されていることから、一つの参考にはなるかと思います。
また、余談ですが、今回JAL社の影響をみて、空運業、海運業に日本基準採用企業が多い理由も理解できた気がします。
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