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四半期決算短信を臨時報告書として開示する方法の目的と問題点~「企業会計」2022年9月号~

  • 佐藤篤
  • 2022年9月20日
  • 読了時間: 3分

前回に引き続き、「企業会計」2022年9月号の特集『決算短信「一本化」へ 四半期開示の見直し』の一記事を取り上げます。

今回は「臨時報告書の拡充とその問題点」(弥永真生)です。

現段階で有望視されている、四半期決算短信を臨時報告書として開示する方法の目的と問題点について解説されている記事です。


臨時報告書に係る罰則規定

  • 臨時報告書のうち、重要な事項について虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、提出会社は、その虚偽記載等ついて、故意または過失がなかったことを証明できなければ、その発行する有価証券を募集もしくは売出しによらないで取得したもの又は処分したものに対し、虚偽記載等により生じた損害を賠償する責任を負う(金商法21の2①②)。


四半期決算短信を臨時報告書として開示する案が出された背景

  • 「ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告ー今後の開示制度の在り方についてー」(2005年の6月28日)において、四半期報告書制度導入の背景の一つとして「証券取引所における四半期開示では、四半期情報に虚偽記載等がある場合であっても、罰則が適用されず、虚偽記載等により損害を被った投資者に対する証券取引法上の民事責任規定等も適用されない」ことが挙げられていた。

  • このような観点からは、四半期決算短信を金融商品取引法に基づく臨時報告書として開示することにより、四半期決算短信の虚偽記載等に対し、罰則を適用し、課徴金の納付を命じ、損害を被った投資者に対する金融商品取引法上の民事責任規定等を及ぼすという発想は理解できる。


臨時報告書による開示の問題点

  • 臨時報告書の虚偽記載に係る提出会社またはその役員の損害賠償責任はかなり厳格なものと位置付けられている。しかも、臨時報告書の虚偽記載に係る課徴金については提出会社の故意または過失は要件とされていない。

  • 上記からすれば、会社及びその役員としては、四半期決算短信の速報性を損なっても、四半期決算短信を公表する時点で、その内容の正確性につき注意を払うことが合理的な行動となり得る。

  • 上場企業の開示にかかる負担の軽減や速報性を損なわないためには、四半期決算短信に対する監査法人等によるレビューを要求するのは合理的ではない。一方で会社の役員が「相当の注意」を払ったことをどのように立証をすることができるのかという問題が生じる。役員がリスクヘッジのために任意に監査法人等の四半期レビューを受けることが事実上の義務となってしまうと、「一本化」の意味が薄れる。


著者(弥永先生)の代替案

  • 臨時報告書の虚偽記載等にかかる罰則に何らかのセーフハーバーを設けることによって軽減することが考えられるが、四半期決算短信の速報性を確保するというだけの目的で、特則としてセーフハーバーを設けることは難しいかもしれない。

  • 速報性確保のため、四半期決算短信を臨時報告書として開示させるというアイディアを諦め、取引所によるエンフォースメントに任せるという方法が穏当かもしれない。


感想

臨時報告書の虚偽記載に係る会社及び役員の責任はかなり厳格です。このエントリーでは省略しましたが、弥永先生の本記事では具体的な判例も紹介されており、その厳格さを実感させられました。

また、実際に上場会社で決算に携わっている方から、早期開示してみたが株価に影響しなかったので元のスケジュールに戻したという話も聞いたことがあります。

そうであれば、任意で監査法人等のレビューを受けてリスクヘッジする会社も少なからず出て来そうですし、そもそも速報性にどれ程の意味があるのかを再考することも必要かも知れません。


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